能面のチカラ

 能面とは何であるかを考えることがよくあります。

演者が想いを託すもの、観客が自分の思いを写すもの、作り手が魂を注ぎ込むもの。どれもひとの心を重ねてゆくものです。私は作り手です。ひとノミ一ノミに魂を注ぎ、ひと筆一筆に美しさを表してゆきます。それらは、能面を使う者、能面を観る者のために存在しています。そして、作る者にも大事です。心を見つめ、心を表し、心を写したい人たちに大いなる可能性を与えてくれます。その可能性は、作る者から使う者にそして観る者に伝わってゆく能面が持つチカラによって現実なものとなってゆきます。そのチカラは螺旋階段の様に時代時代で変化し、時を超え周り巡ってきました。室町時代に出来上がった能面のそのチカラは、安土桃山、江戸時代と繋がって今の令和の時代にもありありと存在しています。苦しみ、悲しみが多ければ多いほど、そのチカラは本来の姿を現します。今この様な時代だからこそ、そのチカラを使って人間を見つめ直してみては如何でしょうか。

私は作り手として、室町時代から巡っているそのチカラを、形を変えて現在に写し取っています。次の時代に残すために、日々ノミを持ち筆を握っています。